北海道の、白をつむぐ

インゲンマメ品種
白つむぎ

 白あん原料として使われる「てぼう豆」の北海道での作付面積が大きく減少しています。気候の変化により秋に雨が降ることが多くなったことから、収穫直前に汚れてしまう年が増え、生産者から作付けを敬遠されるようになったことが大きな理由の一つです。実際、北海道のてぼう豆の作付面積は2015年2,719haから2024年1,300haと10年間で半分にまで落ち込んでいます。
 中でも御座候が長年使用してきた「絹てぼう」という品種は全体の15%ほどしか作られていません。御座候が十勝農業試験場との共同研究によって開発した品種「絹てぼう」は、大粒であんに加工しやすく、味が良いうえ、あんにした時に明るい白になることから、白つぶあんに最適な品種と考え使用してきました。しかし、絹てぼうを含む既存のてぼう品種は莢(さや)が垂れ下がり、地面に着きやすい性質があるため雨の害を受けやすいという問題があります。また、農業人口の減少により手間のかからない作物が好まれるという現代の農業事情から「草姿の改良」及び「品質は『絹てぼう』同等」を目的として、交配による品種改良を2012年にスタートさせました。

白つむぎグラフ

出願品種「白つむぎ」

白つむぎ豆
製餡時の特徴
●きらびやかな華のある風味
●インゲンマメ特有の青臭みがない
●アン色は明るい白
●水を吸いやすく加工適性に優れる
生産面の特徴
●茎が立ち莢が地面につきにくい
●機械で収穫しやすい草姿
●収量は雪てぼう並
▲「絹てぼう」の草姿

▲「絹てぼう」の草姿

▲「白つむぎ」の草姿

▲「白つむぎ」の草姿

※第36693号 令和5年3月3日出願 同年12月19日出願公表
※味や色の評価は御座候のアンに加工した際の評価です。

美味しい白あんのために

 絹てぼうは華やかな風味があり、インゲンマメ特有の青臭みがないことから、女性やお子様を中心に多くのお客様の支持を得てきました。今まで小豆あんしか食べなかった方でも「白あんが美味しいと思うようになってきた」と仰られます。これは、これまでの品種にはなかった絹てぼうならではの味わいがお客様に評価された結果でした。こうしたお客様に支持される品種の特性を残しつつ、機械で収穫しやすい新品種「白つむぎ」は、北海道の白豆(てぼう豆)栽培を「紡ぐ」ことを願い、絹てぼうの味わいを継承し、「絹から紬へ」と繋がるイメージとして名付けました。御座候の取り組みによって誕生した品種ではありますが、当品種が広く作られ、広く使われ、広く愛されることで”北海道のてぼう豆栽培”がこれからも紡がれていくことを願っています。

品種開発の取り組み
~10年越しの品種改良~

 同じ親から生まれた子でも兄弟でそれぞれ性格が違うように、ある品種同士を交配しても、すぐに狙った性質の品種が出来るわけではありません。病気に強い遺伝子を持っているかを確認し、草姿や収量性、熟期等の生産面での特性を確認し、最終的に加工適性や味・風味を確認して、ほんのひと握りだけが品種候補となります。最低でも10年はかかる気の遠くなる取り組みが必要です。下記は小豆の事例ですが、てぼう豆においても同様に、出願までには11年の歳月がかかりました。

1.交配

 異なる性質を持つ小豆同士を交配します。父母を入れ替えたもの等も含め、複数の花を交配します。小豆は自家受粉植物の為、開花した時には既に受粉しています。そのため、開花直前の母となる花の雌しべだけを残して雄しべを除去し、交配したい父となる花の雄しべを受粉させて交配します。

2.世代短縮・選抜

 交配してできた種(雑種第1代)は遺伝形質にばらつきがあります。そこから、耐病性の選抜一つとっても、有名なメンデルの遺伝の法則から少なくとも3世代は必要です。さらに収量特性や草姿など狙った遺伝形質の選抜と固定のためには少なくとも12世代以上重ねなければなりません。北海道での小豆栽培は1年1作ですから、品種改良に12年以上の年月がかかると言われるのはこのためです。
 そこで、少しでも早く品種改良を進めるため、秋から冬にかけて沖縄で2回の播種、収穫を実施し、1年で3世代進める「世代短縮」により品種育成の時間を短縮してきました。

3.生育特性の確認

 世界一の小豆生産地の十勝にとっては最も大切なことです。十勝ではいつ花が咲いていつ収穫できるのか、収量はどうか、莢の着き方はどうか、暑さ・寒さに強いか、草の形は倒れにくく収穫しやすいかどうかなど、様々な視点から確認していきます。(写真はエリモショウズです)

官能試験(味・風味の確認)

 畑での選抜がある程度まで進むと、加工適性や味・風味を確認します。毎年数十種類に及ぶ小豆を煮てアンにして、味や風味、香りや色など複数人で確認します。味・風味はエリモショウズを基準とし、アン色はしゅまりを基準としています。交配親が何かを知らされずに官能試験を行いますが、同じ交配親の種類だけが残ることが多くあります。年産によるブレや遺伝形質のバラつきを踏まえ、複数年繰り返します。
 またこの時、製餡時の煮えムラや漉し餡にしたときの歩留まり、アン色などを機械でも計測して確認します。

5.生産力試験

 数々の試験に残った2、3種の系統を、一定以上の面積で実際に栽培し、生産力を確認します。緊張の1年です。

6.現地試験

 今回は小豆の取引先4機関の皆様と生産者の皆様にお願いし、10か所で現地試験を実施。1年目は部分的に播種した小規模な試験で、2年目には1カ所が数haに及ぶ面積で10戸の生産者の畑で試験しました。
 結果、地域による差は若干あったものの、概ねエリモショウズ並。生産者からはエリモショウズに比べ倒れにくく、収穫もしやすかったという評価をいただいています。(写真左は紫さやか、右はエリモショウズ)

7.DNAマーカー

 近年はDNAマーカーを用いた品種判別や病気抵抗性の検定が可能になっています。そこで、当品種についても品種判別を行い、遺伝的に既存の品種と異なる全く新しい品種であることを確認しました。
 また、重要な落葉病抵抗性についても、DNAマーカーの検定で落葉抵抗性「有」とされました。畑での確認と最新の検定技術を合わせて確認しましたので、病気抵抗性の点で不安をお持ちの生産者の方には安心していただければと思います。

8.産地での普及

 長い年月をかけて新品種を開発しても、作っていただかなければ意味がありません。1年に1度しか採れない作物ですから、新しい品種に切り替えるのは生産者にとって大変勇気のいる決断です。取引先各機関の皆様の説明会開催や普及のご協力もあり、デビュー直後の2018年から一定の規模で作付けいただいておりましたが、以降は伸び悩んでおりました。しかし近年、品種特性の実績が指示されたことや北海道の皆様のご尽力により普及が拡大しています。「産地での普及」が品種開発の最大の課題と言えるかもしれません。